移住コラム第17回:NZの教育(準備編)

以前この移住コラムの第4回「英語教育とキャリア」で長年頭にあった息子のバイリンガル教育が移住の目的の一つであったことを説明しましたが、今回から何度かに分けて現地ニュージーランドでの学校教育を息子の実例を交えながらお届けしようと思います。子持ち家族での移住を考えられている方は多くの場合「いきなり英語の授業なんてついていけるの?」と心配される方も多いかと思いますが、このコラムを読んでいただければきっと安心していただけるか、もっとニュージーランドの初等教育に興味を持っていただけるはずです。

まずニュージーランド渡航当時の息子の英語力についてです。

僕自身が英語でコミュニケーションを取れることの大切さ、楽しさを体感していたためでもありますが、息子がまだ幼少の頃から英語教育についてずっと気にしてはいました。ただ、移住するまでに息子に対してやったことは大したことではありませんでした。

保育園の年長さんの頃からずっとネイティブの先生が教える英会話教室に週1回(45分)通わせていました。何度かクラスを見学に行ったことがありますが時間中延々と英語ゲームをして遊んでいる感覚のクラスだったので、コミュニケーションのツールとして英語を学ぶというよりは「英語のスペルと音に慣れる」「外国人が話しかけてもビビらない」という程度の意義以上のものはないと感じました。まー、日本の子供向け英会話教室はそれでいいと思います。週45分の英語で挨拶以上の会話ができるようになる程英語は簡単なものではありません。これは最近始まった小学校での英語授業も同じなので、過度な期待は禁物です。

移住直前、小学校高学年になった頃から少しだけ洋楽に興味を持つようになったので、洋楽を通して英語に興味をもった僕としては「よしよし」という感じはありましたが、渡航した11歳時点ではいくつか簡単な英単語を知っていたくらいで、自分の意思や意見をセンテンスにして表現できるレベルには到底到達していませんでした。

 

この状態で2011年12月初旬、オークランドに息子は到着しました。学校システムは日本と色々違うところがあるので学年の比較は難しいですが、息子が通う学校はFull Primary Schoolと呼ばれる8年制の学校です。小・中一貫校の中等部、といった感じでしょうか。その年は2月1日が新学年スタートで、学年はYear 7になります。まだこの年だと放っておいても1年もするとパパを追い越すようになるのかもしれませんが、少しでも新しい学校生活のプラスになるように英語を話す親としてできることはないか考えた結果、渡航して学校が始まるまでの2ヶ月を利用して一つ実験をしてみることにしました。

日本語による文法の説明です。

まだダウンタウンのサービスアパートメントにステイしながら家探しをやってる最中の12月半ばから1月末までの1ヶ月半、ほぼ毎日1時間ずつ「総合英語Forest」という受験英語の参考書をテキストとして僕が息子に解説する、というスタイルです。さすがに大学受験レベルのマニアックな構文などはスキップしましたが、入学前までにほぼ1冊全部終わらせることができました。

目的は「覚えさせること」ではなく「理解させること」だったので、僕の説明を聞いてその場で理解できれば後はきれいさっぱり忘れても全然問題視しないことに。人間は一度理屈が納得できてしまうと、その後忘れても次に同じ表現に出くわした時に記憶から掘り起こしてくるのが断然早く、またそうして掘り起こされた記憶は最初の段階で無理に暗記させた記憶より定着度がはるかに高い、というのが僕の経験からの結論です。この試行の結果がどの程度だったか測定するのは難しいですが、息子に変化が訪れる日を気長に待って、何か感じ取れるところがあればまたこのコラムでお知らせしたいと思います。ただ、文法事項はESOLでも教えてくれるのでそれ程気にしなくてもいいと思います。

 

さて、限られた時間でやってみたかった準備は一通り終わったわけですが、息子はクラスメートの多くが受けてきたYear 1からYear 6までの英語の授業を全く知らないので、学校のESOL以外で少しキャッチアップを手伝った方がいいかな?と思い、ある週末に数学(Mathematics)と英語(Basic Reading Skills)の問題集を買ってきてみました。英語に関してはずーと低学年のYear 3用のもので、数学はYear 5のものでした。

しかーし、ここでショッキングな事実が発覚!

随分下の学年用のものを買ったつもりだったんですが、英語のレベルが想像した以上に高いんです・・・

まず僕ですら知らない単語が短い文章の中にチラホラ、そして問題に関してもかなりの語彙力が求められていて、正直自分でも全問正解が危ういくらい難しいものでした。

一つ、この問題集の3ページ目の問題を紹介しましょう。以下の文章を読んで[   ]内に入る適切な単語(最初の文字は与えられてます)を答えてみてください。

Ned Kelly is Australia's most [ 1. w ] known bushranger. He and his [ 2. g ] rode on horseback, stealing [ 3. m ] and valuables.
Finally the gang was surrounded by [ 4. p ] in 1881 at Glenrowan. There was a [ 5. f ] shootout. Ned and two of his [ 6. m ] wore armour made from old pieces of [ 7. i ]. No bullet pierced Ned's armour, but he [ 8. w ] wounded in [ 9. o ] leg and in both arms. Finally the police [ 10. m ] in and captured the badly [ 11. w ] bushranger. 
He was treated in [ 12. h ] before his trial. The judge found him [ 13. g ] of murder and sentenced him to [ 14. d ] by hanging in Melbourne.


正解は以下の通り。

1. well
2. gang
3. money
4. police
5. fierce
6. men
7. iron
8. was
9. one
10. moved
11. wounded
12. hospital
13. guilty
14. death


でした。どうです?全問正解できましたか?

まー、ほとんど内容がわからない授業を聞いていなければならない息子の苦労の方がはるかに大きいはずなので、パパがこんなことで挫けているわけにはいきません。この問題を見たとき、実を言うとショックよりも期待感の方が大きくなりました。この問題集は上に書いたとおり文法(Grammar)ではなく読解(Reading Skill)のためのものです。単語を知らない=語彙力が不足しているのは一朝一夕ではどうしようもないので本人にコツコツ辞書を引いてもらうしかありませんが、ポイントは書かれている文章の文脈を理解した上で、かなり想像力を働かせないと答えの単語を知っているだけでは解けない、というところです。これは授業のテキストだけでなく、会話にも当てはまります。

文脈からその先の流れを予測できれば聞き取れる確率が一気に高まりますし、知らない単語に出くわしても「今までこういう話だったからきっとこういう意味だよな」という推測が働くようになるからです。

日本の受験英語や、今文科省が推進している小学校でのなんちゃって英語コミュニケーションではこういう訓練は絶対受けられないでしょう。僕も英語での教育を受けた経験がなかったので、息子の課題を手伝いながら自分でも擬似学校生活を楽しませてもらうことにしました。

 

最後にもう一つ。

結構基本的な単語も知らない状態でのYear 7開始ということで息子は「辞書と友達になる」ことが必須だったので、日本で電子辞書を購入していました。小学校の低学年であればどうせ学校で基本的な単語から習うので辞書は必要ないと思いますが、小学校高学年くらいからだとかなり重要です。紙派、電子派は個人の趣味ですが、うちの息子に関してはすぐに引けて携帯も便利な電子辞書は非常に重宝しているようです。

また、英英辞書を勧める人も結構いますが、私見では英和辞書で十分だと思います。英英はある程度語彙が増えてきて引いた単語の英語での説明が大体わかるレベルであれば上達に拍車をかけてくれますが、英語初心者は英英だけだと逆に必ず躓きます。息子に聞いても学校生活の中で延々とわからない単語を英英辞書で数珠繋ぎで引き続ける余裕はないみたいなので、できるだけその場で効率的に引ける辞書にしてあげるのが得策です。

 

(続く)