移住コラム第20回:NZの教育(速読)

息子のPrimary Schoolが半年を経過Term 3に突入した頃、通常のReadingクラス(ESOLではない)からとんでもない課題が出されました。

レベル毎にいくつかのグループに分けられて読解力に合わせた本と、その内容に関する問題プリントが配られたんです。一番上級レベルのグループはHarry Potterなんだとか・・・息子のグループは当然ながら他のnon-nativeの子達と一緒で一番下のレベルなんですが、渡された本はなんと「Charlotte's Web」のペーパーバックでした。

この物語、「シャーロットのおくりもの」という邦題で何度か映画化もされているのでストーリーをご存知の方や実際読んだことがある方が結構いらっしゃるかもしれません。子ブタのWilburとクモのCharlotteの友情を描いた子供向けのお話で、直近では2006年に映画が公開されています。原作はネズミが主人公の「Stuart Little」と同じE. B. Whiteで、1952年に初版が出版されました。

クラスで出された課題というのは約2週間でこの本を家で最後まで読み、プリントに書かれた質問(1章で3つ程度)の答えを書き、同じ本を読んだグループの仲間とその内容について話し合う、というものでした。

エグいのはまずそのボリュームです。合計22章、なんと172ページ!!土日を含めて毎日読み進んでも1日10ページ以上のペースを継続しなければ2週間では終わりません。

そして英語のレベル。これは子供向けのお話と言えども原書なので、当然英語学習者を意識したものではなくネイティブの子供に向けて書かれたもの。社会的なトピックの読み物のような堅苦しい表現は少ないですが、逆に小説特有の比喩や倒置は遠慮なくお出ましになります。

ボキャブラリーに関しては牧場が舞台なのでmanure(堆肥)、gander(♂のガチョウ)、trough(餌入れ、読みはトローフ)のような人生で初めて目にする農業専門用語の嵐。まー、ニュージーランドでは日常用語なのかもしれませんが。(笑

ESOL(非ネイティブ向け英語特別クラス)でもある程度の読み物を与えられることがありましたが、まだ挿絵がページの半分くらい占めてる最大でも10ページ程度のショートストーリーでした。それがいきなりこのレベル

それまでの息子の語彙がかなり少なかったこともあり「わからない単語はちゃんと辞書引かないと身に付かないよ」としつこく言ってたんですが、ちょっと戦略を変更しないと精読させるには息子も教える僕の方も限界があります。

 

そこで今回は、ちょっと違ったアプローチを取ってみました。一切息子に辞書を使わせない方法です。

 

【ステップ1:推測させる】

まず「Charlotte's Web」は小説なので、ストーリーが非常に追いやすく書かれています。描写がうまいという理由が大きいのですが、各場面がイメージしやすく、次に登場人物(+動物)の感情や言葉がどう展開していくかの予想が比較的しやすいんです。

これが英語の文章を読む上で一番重要なコンテキスト(文脈)ですね。知らない単語に出くわしても、「前のセリフでこういってたから・・・」とか「この会話の流れだと・・・」とか「自分がこのブタの立場だったらこう言うな」という部分から、慣れてくると結構な確率でドンピシャか相当近い意味を推測することができるようになります。

 

【ステップ2:単語は教える】

息子にはステップ1の「まずは推測」を徹底させた上で、どうしてもわからなくて前後の辻褄が合わなくなるところだけ僕に聞くようにさせます。ここで今までは辞書を引かせてたわけですが、今回はとにかく即答します。大量の文章を読む時、辞書を引くという行為はどうしてもストーリーを把握することを一旦中断してしまうので、上記の「コンテキストを掴む」という観点に反してしまうんです。

ただ、単に意味を教えるだけでは脳がないので、少し余分な情報をそこに追加します。例えば「frightened」という単語がわからない、と聞かれた時は「"怖がる"って意味」にプラスして

・「scared」と同じ意味なんだよね。→知ってる同義語と関連付ける

・「frighten」は『怖がらせる』って動詞で、『恐怖』という名詞の「fright」にenを付けて作るんだよ。「strength」にenを付けたら『強くする』って意味の「strengthen」になるのと同じ。→単語の構造を説明して派生語に言及したり、接頭辞や接尾辞の働きを理解させる

・それ、~の場面でも出てきたよね?→同じ単語の意味を聞いてきた時は前どこで使われてたかを指摘する

といったことを思い付きベースで話します。全ては情報を単発で終わらせず、連想記憶を最大限活用するためのものです。

 

【ステップ3:説明させる】

こういう調子で1章を息子が読み終えた後に、あらすじや面白かったセリフなどを日本語で簡単に説明させます。あまり出てこない時は「この時Wilburってこのネズミに対してどういう感情を抱いてた?」とか少し誘導尋問的な質問をして理解度を確かめます。

これをやると勘違いしているところとか、コンテキストを把握する上で重要なのにきちんと理解できてないところとかはっきりわかるので、その部分だけざっくり意味を取って方向修正をしてやります。

気を付けなければいけないのが、文法がわからなくて理解できてない箇所があってもあまり深い文法の説明をしないことです。量をこなすことが重要なので、簡潔に説明できないようであれば意味だけ教えてそこで切り上げます。

 

うーん、こうして書いてみるとなんだか「ちゃんとしたメソドロジー」になってるように聞こえてしまいますが、本当にワークしたのかどうかは確証があるわけではありません。。。

僕自身この作品は読んだことがなく未知の単語も結構な量あったので、息子に聞かれて即答するためには事前にこっそり辞書を引いておかなければいけませんでした。予め先回りして引っかかりそうなところを見つけておいたり、この頃は自分の専門学校の中間アセスメントと重なったたりで予習も楽ではありませんでした。

でも、この手法はある程度のボキャブラリーや初級文法が身に付いてからでないと実行できないので、その意味では最高のタイミングで最高のマテリアルが与えられたこのチャンスを活かさない手はない!と意を決して実行したわけです。

 

最後は少しダレましたが、なんとか2週間の期限通りに1冊読み終えることができました。途中嬉しかったのが、息子が読むのを「楽しんでいた」という点。これは過去に日本語の課題図書でもなかったことです。ストーリーがキュートなので内容がわかると引き込まれやすいのと同時に、「こんなに長い文章を英語で読んで、しかも内容がわかってる!」という息子の興奮をひしひしと感じました。

なんだかんだそれまでの6ヶ月の積み重ねは大きかったと思いますが、移住初年度でこれだけのボリュームの英文を完読したことで息子の大きな自信になったことだけは間違いありません。

 

(続く)