息子の学校の授業内容紹介が随分続いてしまいましたが、今回で最後です。英語に関することではないですが、ニュージーランドの初等・中等教育がいかに「Creativity」に重きを置いているかを示すいい例が息子の学校の課題であったのでどうしてもこの場で紹介しておきたくて。もし日本で同年代のお子さんをお持ちの方がいらっしゃれば今の日本の教育内容と是非比較してみてください。少なくとも僕が中学校の頃この手の課題を出された記憶はないんですが、もしかすると文科省の指導により今はすっかり変わっているというのを知らないだけなのかもしれないので。←皮肉
課題はYear 7の最後のタームで出されたもので、約2週間の期間が与えられていました。内容は以下の通り。
1. companies、entrepreneurs、industriesの中から好きな会社なり創業者なりを1つ選ぶ⇒息子はかなり気合の入ったパソオタなので、迷うことなく「Microsoft」に決めてました。(笑
2. 選んだものについて5つの「Open-Ended Questions」を考える
3. その質問に対応する「Well-Written Answers」を書く
4. A3の用紙にまとめる
5. リサーチに利用したソース(出展)を明記する
最初にこの課題を見た時、正直感動すら覚えました。たった2週間の取り組みで、息子が吸収できることは山のようにあると思ったからです。内容盛りだくさんになりますが、僕が感じたこの課題の意義をまとめてみたいと思います。
【自由な発想】
日本の夏休みでも「自由研究」のような課題はありますが、ある子が昆虫採集の標本を作ってきてる隣である子が空き缶を利用して作った車を展示してるって状況はもはや「自由」を通り越して「野放し」だと思うんです。学校が生徒に何を身に付けさせたいのかが見えないし、結果も比較や評価のしようがない。
この「枠」や「範囲」をある程度ガイドラインとして定めて、その中で個々の裁量を認めてあげることはとても有意義だと思います。大学で研究するにしても社会で仕事をするにしても必ず一定の「制約」があり、その中で発想を競うことがほとんどだからです。
また、革命的な製品を世に出したり奇跡的な業績を成し遂げたりするにはこの「枠」を破ることが必要になることがありますが、そもそも枠がどこまでなのかを知らない人間に枠を破ることはできません。
実際息子が選んだ「Microsoft」というテーマは同じくパソオタなある中国人の友達と被ってしまってました(ちなみにこの二人、どうすれば学校のネットワークの管理者アカウントをハッキングできるか今でも毎日真剣に話し合ってるそうです・・・)。そうなると、息子はいかにしてその友達から自分の発表を「差別化」させるか?をもっと真剣に考えなければなりません。
僕は点数主義者でも自由経済原理主義者でもありませんが、学校における適度な競争やライバル心は切磋琢磨を通したお互いの向上に有意義だと考えています。そして、学校や親の役割は競争を排除することではなく「適度なレベルにコントロールすること」だと強く思います。
【Open-Ended Questionの重要性】
この言葉、僕が最初に知ったのは会社の管理職研修か何かのコーチングセッションなのでつい最近ですよ(←遅い)。それがもう中一レベルで組み込まれているとは驚きです。
コミュニケーション技法の一つで、相手からより多くの情報を引き出し心を開いてもらうようにするテクニックです。「Did you enjoy your vacation?」というclosed-ended questionだと「Yes, I did.」で会話が終わってしまう可能性が高いのに対し、「How was your vacation?」というopen-ended questionだと「Well, it was brilliant! The weather was fine, and we went to ...」と相手からより多くの情報を引き出せる可能性が増し、その内容について更に会話を続けていく、といった例がよく出されます。
つまり、この課題においては「自分で質問を決める」ことができ、なおかつopen-endedなので回答に調べたことを色々書いて「Well-Written Answer」に仕立てていくことができるのです。正解を見つけることが重要なのではなく、自分なりの回答を論理的に組み立てることに重きが置かれているのです。
ここで息子に教えたのが「Brainstorming」(短縮形が好きな日本では「ブレスト」ってよく呼ばれてますね)。質問は5つと決められてますが、まずは数に拘らず考えられる質問をどんどん列挙していきます。一般的と思われる質問や、answerに書きたい内容から逆に作った質問など、とにかくこの時点では一切否定せずできるだけ多くの案を出します。
確か20個くらい一緒にリストアップしたと思います。ここで次のステップ、「選択と推敲」で最後の5つに絞り込んでいきます。あまり面白いanswerになりそうにないもの、調べるのがとんでもなく大変そうなものなんかを落としていき、質問内容も「こうすればanswerを書きやすくなるのでは?」という部分を手直しして改善していきます。
プロジェクトの企画段階なんかではよくやる手法ですが、学校の課題でこれを適用したことはなかったので僕も楽しんでやりました。
【プレゼンテーション】
これもA3用紙というスペースの制約の上でいかに読む人を引き付けることができるか?を考えるのはかなり発想力を養うことができる作業です。
まず課題内容には「Well-Written Answers」と書かれているだけで、どのように書け、という指示はありません。つまり、5つの質問への回答という形式に沿っている限りはプレゼンテーション(表現方法)は生徒達に一任されているのです。
そこで、最初息子に言ったのが「見た目の重要性」です。世の中にはとても素晴らしい内容なのに、プレゼンテーションを間違ったばっかりに誰からも注目されず、知られないまま埋もれてしまっているものがたくさんあります。多くの場合、作成者が内容に自己満足してしまい、自分の作品や発表が人から見られる・読まれるものだという視点が欠落してしまったために起こるものです。
なので、息子には「君の発表は先生や同級生に見てもらうために時間をかけて作ってるんだから、どうやったらその人達がもっと見たい・もっと読みたい!と見た瞬間(中身をよく見る前)に思ってくれるかを意識しながら全体をデザインしてごらん」と言いました。
色んな要素がありますが、一般的にはA3のスペース内でのタイトルの場所・大きさ、5つのQ&Aの配置、カラーの使用、などです。「枠」を壊せる発想力がある人ならば飛び出す絵本のように立体的にするとか思い付くのかもしれません。(笑
あと、調べた内容の書き方にもプレゼンテーションを工夫する余地があります。
小さなフォントでダラダラと文章を連ねても見る人にアピールしないので、箇条書きを利用する、数値についてはグラフや表を利用する、内容をイメージしやすい画像を使う、といった書き方で印象は随分変わるよ、ということを教えました。実は仕事でExcelは使い倒していたんですが、グラフってあまり使わなかったので機能を調べるの結構大変でした・・・
【出展(ソース)の明示】
「たかが中学生の宿題で」と思われるかもしれませんが、これはすごく重要です。「物語を書いてきなさい」という課題ではないので、基本的には自分がリサーチをした結果をまとめて、読んだ人に「新しい情報を知ってもらう」ということがテーマなのですが、この時「自分ででっち上げたストーリーや数字ではないよ」という証拠を示すということは情報の信憑性を高めます。そのことは更に説得力に帰結します。
情報提供系の発表で往々にして印象に残るプレゼンは「みんなが知らない驚きの事実を教えてあげる」ものです。でも内容が驚きに満ちていれば満ちているほど「え~、なんか怪しいな~、ホントかよ?」になってしまいがちなので、その時にちゃんとした裏付けを提示できるとその情報の付加価値は一気に上がります。
なんか、日本だとこれを一番実践してもらいたいのって学生じゃなくて政治家なんですけどね・・・
そして、こちらが出来上がりです。親バカ承知の上で晒します。
案の定提出直前のギリギリまでレイアウトとかグチャグチャで、前日は夜中過ぎまで息子にアドバイスしながらなんとか完成させました。
右上のOS年表はすごく凝ってるように見えますが、実はWikipediaの画像をそのままパクっただけです。紙での提出だから全然わからない。(笑
学校でもパワーポイント使ってるみたいなので本当はパワポ使えるとレイアウトの自由度が高まるんですが、家のPCには入ってないのでMS-Wordベースです。テキストボックスが思ったように操作できなくてコンテンツの配置だけで結構苦労しました。。。
右下の円グラフと表はExcelで元ネタ作って貼り付けてます。表計算ソフトは学生のうちはなかなか触れる機会が少ないので今回いいきっかけになりました。
一番の収穫は息子本人がこのプレゼンを作る過程をかなり楽しんでくれたことです。自分でリサーチしてまとめてデザインすることを楽しい!と思いながらやると、やっぱりまだ子供なのですごい勢いで吸収してくれているのが手に取るようにわかったのが教えてる立場としては非常に嬉しかったです。
こ れからお子さんを連れてニュージーランドに来られる、または計画されている方達にこのコラムを通して学校の具体的な授業内容を少しでも感じ取ってもらえた ら嬉しいです。こちらでは子供の宿題を親が手伝うのは当たり前なので、一緒になって楽しみながらサポートしてあげてください。Kiwiの教育は個人的には 素晴らしいと思いますが、学校任せにしないところもまたKiwi流なんじゃないかと思います。