移住コラム第10回:出国準備(手続き編)

前回「引越し編」の続き、出国準備の最終回「手続き編」です。

普通に国内で引っ越すのと同様、引越しに伴う水道・ガス・電話・電気の停止通知をするのは当然ですが、それ以外に海外転居にユニークな考慮すべき手続きがかなりあります。今回は今後僕と同じような道を進む方がチェックリストとして使ってもらえるよう、それら重要な手続き関連事項を列挙してみたいと思います。

 

●健康保険

僕は会社勤めだったので被用者保険(いわゆる社会保険:社保)で、保険料は給与から毎月天引きされていました。会社を辞めての海外移住だったので、出国までの医療費を保険でカバーするためには辞めた時点で国民健康保険(国保)に切り替えなければなりません。ただ、僕は退職日が11月末で出国日が12月4日、ちょっとハラハラしましたが手続きが面倒だったので1週間弱健康保険なしの状態で過ごしました。国保は強制加入なので、これ厳密にいうとダメです。よい子はマネしないように!

あと、勤め人の人は退職日が月末日だと社保の資格喪失日が翌月1日になってしまい、翌月分も保険料が徴収されてしまいます。このため、僕は会社と相談して退職日を月末日の1日前にしてもらいました。

また、出国後は国保加入が任意になるため、抜けたい人は海外転出届けを出すだけです。日本に一時帰国した際に保険適用の治療を受けたい人は役所で継続の手続きを行って出国しましょう。国保に加入してれば海外で病院にかかった場合でも帰国時に給付請求すると一部は戻ってきますが、日本国内の医療機関で受ける診療内容で再計算された金額のさらに7割だったり、他にも様々な条件があって相当複雑&面倒なので、メリット・デメリットをよく調べた上で決定してください。

海外での医療費は永住権か2年以上のワークビザを取得するまでは民間の海外旅行保険などでカバーするのが普通ですが、これについては移住後にやることで別途触れたいと思います。

 

●公的年金

サラリーマンにとっては年金も上の健康保険と似たような部分が多いです。まず勤め人は厚生年金の人が多いと思いますが、年金保険料の徴収が資格喪失日を基準とする点、退職すると国民年金に切り替えて、海外移住すると加入が任意になる点は健康保険と同じだと考えてください。

ただ、ご存知のように年金の受給資格は25年間年金に加入していること、という条件が付いています。このため、これを誤解して「25年に満たない場合、海外移住して任意加入しないと日本の年金はあきらめなければならない」と誤解されている人も多いようです。これ、全然そんなことはありません。

まず国民年金には任意加入になりますので、資金に余裕があるのであれば25年経過するまで(もしくはその後もずっと)年金保険料を払い続けることもできます。年金受給金額は支払った保険料額に応じて計算されるので、そうすることで将来的に受け取ることのできる年金は増えます。

また、支給額の計算には加算されませんが、海外居住期間は「カラ期間」と呼ばれ、年金の受給資格期間の計算にはカウントされるのです。僕の場合は厚生年金を通じてほぼ20年保険料を支払っており、任意加入を継続するほどの資金力もなかったので当然こちらの選択肢でした。役所で海外転出届けを出して国民年金の任意加入手続きをしなければ自動的にこちらになります。

自分が年金をもらえる年齢になった時に破綻寸前の日本の年金機構から期待する年金額がもらえるとは到底思えないのも任意加入を続けない大きな理由ですが、実はニュージーランドは年金制度が充実していて、永住権取得者でも10年暮らしていると将来年金が受給できます(しかも掛金無し)。年を取って日本円とNZドルの両方で年金をもらえるのはちょっと魅力的ですよね。

 

●住民税

住民税は前年度の収入を元にして計算された金額が、当年の6月から翌年の5月にかけて12回に分けて徴収される仕組みになっています(特別徴収=会社による天引き、の場合)。気を付けなければならないのが、たとえ住民票を退職直後に抜いて海外移住したとしても5月までの納付義務は逃れることができません

手っ取り早いのは会社に退社時の「一括徴収」をお願いして、最後の給与からまとめて清算してもらう方法です。退社後に送られてくる納付書によって自分で納付する(普通徴収)こともできますが、親族の誰かに代わりに納付してもらうとか面倒だったので僕は一括徴収にしました。

5月まで月数が残っているとかなりの負担になるので「国税も海外まで追っかけてくることはないだろう」と高を括って逃げ切りを図りたく気持ちもわからなくはないですが、そんな人にはあえて「立つ鳥後を濁さず」という言葉をお送りします。

ちなみに、住民税の納付義務は1月1日に住民票が日本にあるかどうかの一点で決まります。つまり、僕のように海外転出届けを年内に出した人は2011年に何千万の所得があっても2012年6月から2013年5月にかけて支払う住民税は「なし」となります。これは制度上の仕組みなので、意図的な悪用でなければ決して脱税行為には該当しません。

 

●転出届け

各地方自治体の役所に「海外転出届けを出す」ということは「日本国内から住民票を抜く」とうことを意味します。いわゆる「非居住者」になるわけです。これにより国民年金・国民健康保険の加入は任意となり、その年の住民税を支払う義務はなくなります。

逆に言うと、なんらかの理由で国内に住民票を残す場合は上記の健康保険、年金、住民税の納付義務も残ることになります。

海外転出届けは出国予定日の2週間前から受け付けてくれますのでお早めに。

 

●確定申告

僕はサラリーマンでありながら毎年確定申告していましたが、年末調整だけで済む人であれば会社に「年末まで日本で他の所得はない」ことを申し出れば年末調整してくれる場合が多いと思います。

なんらかの理由で確定申告が必要な場合は、「準確定申告」と言って申告期間前(つまり海外転出届けを出す前)に確定申告しておくことができます。

還付がある場合は1ヶ月もすると指定した日本の口座に還付金が振り込まれるのでちょっと嬉しかったりしますが、逆に追徴される場合は納税管理人を指名して期日までに払い込まなければなりません。

所得税は上記住民税などと異なり、住民票の有無は関係ありません。家賃収入など日本国内での所得がある場合は、国外に居住していても日本で納税する義務が発生します。

 

●生命保険

生命保険や個人年金はプランによって様々なので一括りで語ることはできませんが、選択肢としては「払い続ける」か「解約する」の二つだと思います。

保険料・年金掛金の支払い、および請求は日本の金融機関を通すことが前提になっている保険会社がほとんどだと思いますので、日本に残してきた口座からの自動引き落としを設定しておく等で継続することは可能なはずです。

もし解約する場合でも、終身保険では「払い済み」という仕組みがあり、解約後は今まで払い込んだ保険料を元に減額計算された保障を受け取る権利を残すことができます。

 

●銀行口座

非居住者になるからといって既に開設している銀行口座を解約する必要はないはずですが、変更した海外住所に郵便物を送付してもらえるかどうかは各銀行によって対応が異なります。Citiのような外銀だと非居住者口座なんて世界中で当たり前なのでかなり慣れてますが、邦銀だとそこまでやってくれる所は少ないんじゃないでしょうか。僕は銀行から重要な郵便物が届くこともないと踏んだので住所変更はまだ銀行へ届け出ていません。

出国後もクレジットカードの決済や電話・光熱費の最後の引き落としなどがどうしても発生してしまいますので、決済専用にしている口座には余裕を持った残高を残しておきましょう。

あと、そういう口座は海外から残高照会・管理をリモートでできるようにしておく必要があります。インターネットバンキングの手続きがまだの場合はお忘れなく。

 

●証券口座

決済のためだけに使う銀行口座であれば残しておく方が便利、と上で書きましたが、株式や投資信託の取引を行っている証券会社やFXの会社に投資商品用の口座をお持ちの場合は事情が大きく異なります。

まず、日本のほとんどの証券会社では非居住者による口座保持を許可していないと思いますので、出国前に保有ポジションは全てクローズして口座は解約しなければなりません。

税金の絡みなので何やら非常に複雑で難しいのですが、多分それが理由で日本の証券会社も厄介事は避けたいんだと思います。どうしても海外移住後にそのような金融資産で運用したい場合は現地の証券会社などで新たに口座を開設しましょう。

 

●郵便物転送

住民票を実家に移すとかだと別ですが、海外転出届けを出した場合でも郵便物の転送サービスを郵便局に申し込んでおき(無料)、実家や親族の家に転送されるようにしておくと何かと便利です。

この届けで1年間は転送してもらえますので、転送先住所をきっちり確保して転送物の扱いもそこに住んでいる人と話を付けておきましょう。

また、お金はかかりますが海外へ郵便物を転送するサービスを行っている業者さんもあるようです。移住後も日本のオンラインショップで買い物を頻繁にされる方は検討する価値があるかもしれません。

 

●クレジットカード

現地銀行ですぐに決済(デビットカードかクレジットカード)できるようになれば楽なんですが、うちの場合は現地住所を確保するまでに時間がかかってしまったので、当面の大きな買い物は日本で作ったクレジットカードをフルに活用しました。もちろん引き落としは日本の銀行の口座なので、残高と請求金額はリモートできっちり把握しておかなければなりません。

年会費がかかるものも多いので最低必要なカード以外は解約しました。将来長期に渡って利用する予定はありませんが、万が一のことがあった場合の安心につながるので残したカードはしばらくキープしておこうと思います。

 

●現地銀行口座開設

海外で長期間(もしくは一生)生活するためにはある程度まとまったお金が必要ですが、日本の資産を移住する国に送金するためにその国で銀行口座を開設する必要があります。移住する国にもよりますが、これがなかなか日本にいる間は難しかったりするかも。いつでも海外移住できるように、早いうちに調べて一つ作っておくことをお薦めします。

うちは4年前に妻がNZ口座開設現地ツアーに一人で参加しANZ銀行の口座を作っていたので、今回は日本からそこに送金するだけでした。当時は現地に行くしか海外口座開設方法が見つからなかったのですが、ANZであれば現在は現地口座開設サポートというサービスを日本の支店で行っているようです。→こちら

送金は使う金融機関によって送金手数料、為替手数料にかなり差があるので、まとまった金額になると結構バカになりません。僕は為替手数料の安さを最重視していたので新生銀行を使いましたが、実際に送金する前にご自分でリサーチしてみてください。


もっとあっさりまとめられると思ってたんですが、とんでもなく長くなってしまいました...
自分が調べたり経験しただけの狭い知識で書いてますので、詳しい方からのご指摘があれば後で訂正して、できるだけ正確な情報にしていきたいと思います。どうぞご協力ください!

 

(続く)